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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
「え?」

声と同時に鼓動が駆け出し、顔が強張ってくるのがわかった。

「や、やだ私ったら……」

「あはは、透子にしては珍しいね。なに慌ててたの?」

「そう、そうなの、私ったらすっかり慌てちゃってて。あ……ほら、ステーキ」

「ステーキ?」

とにかく目についた買い物袋を指差した。

「そう、ステーキ。あのスーパー、閉店間際に値下げするから、絶対に間に合いたかったの。でも結局、割引されてないお肉を買っちゃった」

「へぇー。ね、それって俺のため?」

「……だって大好物でしょ?」

「もちろんさ」

機嫌良くそう言って荷物を持ち上げ、キッチンに運んでいく。その弾む背中を見つめ、安堵のため息を漏らした。

妻がついさっきまで誰といたのか、何をするつもりでいたのか、欠片も疑いを持たない夫。

「透子、先に風呂に入って来れば?俺、めし炊いとくから」

冷蔵庫に食材を詰め込みなから、そんなことを言う。

「いいの?」

「沸かしといたから、すぐに入れるよ」

「ありがとう」

よほど良い契約が取れたのか、私の狼狽に気付かず鼻歌を歌っている。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「どうぞどうぞ。腹へったからな、えーと、3合炊いとくか」

張り切っている雅人にキッチンを任せ、私は寝室に逃げ込んだ。


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