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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
アンクレットを外さなければならなかった。これだけは、誰の目にも触れさせたくない。

見つかったとしても上手く誤魔化せる。でもこの足枷は今、私の秘めた本心になり、支えになっていた。
決して見つかってはならない、表に出してはならない物だった。

ベルベット調の小さな巾着袋を、ドレッサーの小引き出しから取り出す。そこにアンクレットを入れてバッグにしまうと、肩からすとんと力が抜けた。

着替えを手にバスルームへ向かう私に、振り向いて笑顔をくれる雅人。

「お先に」

「うん、ゆっくり入って」

こんな毎日なら、秘密を抱えずに済んだだろうか。あの時の松岡の誘いを、振り切る事が出来ただろうか。
きっとそうだ。
大切な相手との日々の営みを、変えたりはしない。
それが私の筈だった。

後戻り出来ない今、私は言い訳を考えていた。今夜夫が、ベッドに誘ってきた時の。

身体を洗っても、バスタブに浸かっても、もう痛みはない。けれど、夫を受け入れ難い思いが私の中に宿っていた。

昨夜の違和感が拭いきれないのかも知れない。いや、それは自分への言い訳で、松岡への気持ちが、夫を拒否したがっている。

──死ぬまで君を愛しぬくよ

私に愛を語りながら、彼は妻を抱くのだろうか。

何も知りたくない。
目の前の彼だけがすべて。

自分の罪を棚に上げ、醜い嫉妬がまた顔を出した。

頭からシャワーを浴び、顔に流水を叩きつける。

「透子ー、ごめん。仕事の件で呼び出された」

ドア越しに声がした。

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