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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
ご飯の炊き上がった匂いが静かなキッチンに漂い、まな板の上には、スライス途中の玉ねぎがのっかっていた。

形の揃っていない切り方にくすっと笑い、包丁を手に、その続きを切り始める。

キャベツ、人参、じゃがいも、ウィンナー……。スープを弱火で煮込み、冷蔵庫から出しておいた肉に黒胡椒をかけようとして手を止めた。

夕食はどうするのだろうか。
雅人が気になって携帯電話を確認すると、メールの着信を見つけた。

──透子ごめん
遅くなるから、ご飯待たなくていいよ
ごめん、先に寝てて

──雅人の分も一人で全部たべちゃうよ
お疲れ様、無理しないでね
おやすみなさい

一人分の肉を焼き、ナイフとフォークだけが置かれた空席と向かい合って食卓を囲む。

ワインを開けるのは雅人の役目で、コルクをぼろぼろにしてしまう私では開けられない。

ナイフが皿に当たる音だけが、食卓を賑わせていた。

美味しいねと、言い合える相手がいなかった。

こんな事はもう日常茶飯事で、取り立てて寂しいという訳でもない。

ただ、どこか違う。思い過ごしかも知れない。でも、確かに、何かが微妙にずれていた。
自分の背徳感のせいだろうか。

けれどそのズレは今に始まった事ではなく、もっと前から始まっていたのではないか。
漠然とした不安が現れては消える。

自分への上手い言い訳を、探しているだけかも知れなかった。










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