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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
出勤する時の雅人は疲れた様子もなく、むしろすっきりとした笑顔で玄関に立った。

「透子、そんなに心配そうな顔をするなよ。何もかも上手くいってるし、俺、期待されてるんだぜ」

意気揚々と出掛けていく夫に、「無理しないで」と言うしかなかった。ノルマの達成は、どの職場でも厳しいという事はわかっているが、商社の営業というのは特に激務であると、雅人を見ていて思う。


そんな彼からメールが入ったのは、私が職場に着いてすぐだった。

──今日は早く帰るつもりだったんだけど、接待で遅くなりそう
チャンスは逃したくないから、俺を売り込んできます!

その文字の勢いが、私のため息を誘った。
返信する気にはなれず、了解しました、という言葉で済ませてしまいたくなる。

再び着信を告げたのは、松岡からのメールだった。

──予定通りだ
君の仕事が終わる頃、地下駐車場の例の場所で待ってる
透子、楽しみにしてるよ

私は今日も、足枷をつけていた。
彼に愛され、求められる事が、今の私の支えになっている。
夫で得られないものを、松岡に求めているのだろうか。

自分を分析しながらも、心は浮かれ、口角が上がってしまっている事に気付いて慌てた。

都合よく事が運んでいた。
いつか松岡が口にした「心配ないよ、全て上手くいく」という言葉そのままに。








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