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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
ひょっとして、何かサプライズがあるかもしれない。

それは夫に限っては、ありえない妄想だった。すぐに否定してしまえる自分自身に苦笑する。

松岡の視線が、心を捉えていた。

美波の言う通り、目元のたるみも、少しゆるんだ頬や喉の肉も、若さが過ぎ去ってしまった証だった。けれどもそれは大人の男の渋味であり、滲み出た自信でもある。

そう感じるようになったのは、松岡が姿を現してからだ。

もしかして彼は、意図的に私の心ににじり寄り、そして今、触手を伸ばそうとしているのだろうか。

近づいてくる砂嵐に背を向けて走れば、今なら巻き込まれずにすむ。

背を向けて走れ。
早く、早く……。

動揺していた。
それは、男からの誘いに対してではなく、私の中で燻りだしたものが見えてきたからだった。

立ち尽くし、危うい方を向いたまま、自ら息を詰まらせているもの。
それは、"期待"ではないのか。

込み合ってきた電車の中で、私はバッグを胸に抱え、しっかりと守った。まるで5カラットのダイヤモンドを持ち歩いているような、戸惑いと興奮に、胸を震わせていた。




──────────


平凡な毎日。

波風も立たず、特に不満もない安定した生活。仕事は充実し、家庭においてもこれといった悩みはない。

そんな淡々とした日々に、変化はいらない。

変化はいらない筈だ。












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