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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
「ご主人大丈夫だった?」

白石の言葉に、昨日の嘘を思い出した。

「はい、お陰様で。今日はなんとか出勤しました。疲労からくる頭痛だったみたいです。ご心配をお掛けしまして、申し訳ありませんでした」

「ゆっくり休んでもいられないなんて、旦那さんのお仕事大変なんですね」

美波が気の毒そうな顔をした。

「ほんと、いろいろとあるみたいでね」

「でもよかった~。透子さん、昨日と違って、なんだかいきいきした顔してますよ」

「そう?」

「そうですよ、ふふっ。旦那さんが元気になって、よほどほっとしたんですね」

夫ではなく、松岡のせいだった。

傍目にもわかるような変化を誰かに指摘されるのは初めてだった。
いつも冷静でいたかったし、変化を必要としなかった。それが今、いきいきしていると言われ、それが無性に嬉しいなんて……。

見渡せば、昨日まで沈黙していた宝石達がまばゆい光を放ち、美しい花を咲かせて揺らめいていた。

目を転じれば、顔見知りの店員達までもが個々に輝き、 見とれる私の目の前をはつらつと行き来している。

いつもと違う光景だった。
目の前のもの全てが、希望に満ち溢れているよう見える。

これも、松岡のせいだろうか。

何度も時計を確認し、その度にため息をついた。

バーゲンセールの打ち合わせや、新デザインのカタログ確認など、慌ただしかった一日がようやく閉店に近付き、静かに明かりを落とそうとしている。

この胸の高まりと、反比例して。















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