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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
「透子、なにを見てる」

「雨が……」

雨に滲んだ夜景は鮮やかさを失い、窓ガラスをつたう雨粒は、行き場を探して曲がりくねる。

背中から抱かれて眩暈を起こしそうな私に「バスルームに行こうか」と、彼が耳元で囁いた。

待っていた車に乗り、どこにも寄らずにこの部屋に招かれた目的は一つ。
それが私達の関係である事を、改めて痛感する。

身体だけの繋がりと割り切って情事にふける者達と、なにも変わらない。
そこに愛があろうとなかろうと、不倫という言葉でひとくくりにできる。どこにでも転がっている、特に珍しくもない関係──。

他人事でしかなかったその領域から一度は引き返したのに、今また踏み出そうとしてる。

酔った勢いにできない事が私を立ち止まらせ、酔っていない彼が、私の手を引いていく。

洗面台の大きな鏡が、私達二人を映し出した。

後ろから伸びてきた手が、ブラウスのボタンを外していく。襟を開き、肩口に唇を押し当てる男と、耐えきれずに熱い息を漏らす女。

堕ちていく。
堕ちていきたかった。

スカートが足元に落とされ、黒のショーツとガーターベルトを着けた身体が写し出される。

ブラウスが脱がされると、黒いレースのブラジャーが、羞恥に震える私を気休め程度に覆っていた。


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