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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
目を凝らしたままの男の深いため息が、私の背中をそろりと撫でる。

2年前、夫に喜んでもらおうと勇気を出して買ったランジェリーを、夫ではない男の前で初めて身に纏うなんて。

「脱がせるのはあとにしよう。透子、嬉しいよ、私の為に」

鏡に向かってはにかむ私の目に、首筋を舐めあげてくる長い舌が見えた。 

「っ……」

「君がどんなに美しいか、私が教えてあげよう」

それが甘美な誘いの戯言だとしても、耳元に響く声が、心の囲いを取り払う。
何でも信じてしまう、何でも受け入れてしまう。

彼の左手が私の右頬を軽く持ち上げ、唇を重ねてきた。

ネクタイを緩める気配を後ろに感じながら、私は舌を絡ませ、彼の誘いに応えた。お互いの息使いが、次第に激しくなっていく。

目の前に来た彼に両手を掴まれ、壁に押され、唇を奪い合う。真上に上がった両手が一つにされ、何かが手首に巻かれた。

「っ……ん……、んんっ」

首を捻って逃げようとする私から、ようやく唇が離された。 

「もう逃げられないよ、君の事は全部知ってる」

頭上で両手を縛られた女が、呆然と立っていた。

「な、何をするんです」

「あぁ、綺麗だよ、透子。私に何をして欲しい、ん?」

意地悪な笑顔が私の不安を誘い、そんな私を楽しむ視線に、胸が高鳴っていく。
苛めて欲しくなる、どうしようもなく──。

あぁ……。

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