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お礼の時効
第9章 私と結婚してください
「春季?」

 鏡の前で春季は自分の胸元を見て呆然となった。
 和臣が横に立ち鏡を見るとその原因が分かってしまい、嘆息してしまう。

「ねえ、和臣……」
「……ごめん、春季……」

 春季の胸元にはたくさんの赤い花びらが舞っていて、ウエディングドレスを着ても隠しきれないでいた。昨夜愛し合った『証拠』を眺めていうちに、春季はあることを思いついた。

「コンシーラーがあったはず、それで隠すわ」

 春季が慌ててバッグの中に手を入れて化粧ポーチを探し始め、それからコンシーラーを取り出した。春季はそれを器用に使い、赤い花びらはすっかり綺麗に隠された。ほっと一息ついた春季はそのポーチをしまったあとで、和臣の方を向いた。
 口を尖らせている春季の顔がなにか不穏な気配を発している。

「しばらくキスマーク禁止よ、和臣」
「えっ!」
「え! じゃないわ」
「そんなに胸元が開いた洋服を毎日着るつもりですか? 春季」
「いいえ、着ないわ。それにこのドレス、和臣がこれがいいって言ったんじゃない……なのに……」

 春季は赤いグロスをつけた唇を更に尖らせ顔をぷいと背けた。どうやらキスマーク禁止は回避の可能性が高い。ならばと和臣は春季を抱きしめた。

「だってこんなに綺麗な春季が私の妻なんて、信じられなくて。だからキスマークでけん制しているんです。浅はかな男でしょう?」
「だから……、もうそんな心配しなくてもいいのよ……」

 顔を逸らしたまま春季は冷たく言い放つ。頬が赤い。そろそろ頃合とばかりに和臣は囁いた。

「愛しています、春季」

 春季は和臣をちらりと見やり、和臣の腕に手を添えた。

「和臣、時間よ。行きましょう」
「ええ、奥様」
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