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お礼の時効
第9章 私と結婚してください
 和臣は15年前のことを思い出していた。
 合格発表の時に自分の目に映った一人の少女の姿。
 恐らく合格したのだろう、自分の番号をうっとり見つめている彼女に釘付けになった。長い髪が風に舞う度に細い首が露わになって、和臣はこの時恋に落ちた。
 それから数ヶ月が過ぎ、その彼女と再会したのは入学式で、挨拶をしなければならない和臣は大学の事務の方へ向かっていた。
 すると紺色のスーツを身につけた彼女と廊下でばったり会って、きれいな 顔(かんばせ)を直視してしまい、顔が一気に熱くなり避けるように横をすり抜けた。
 同じ講義を受けながら、気がつくと彼女の姿を追っている自分に気づき、それが恋だと知った。
 互いに話しかけることもなく、4年が過ぎようとしていたとき、思いがけないことが起きた。
 卒論のために図書室で関連の辞典を探していると、同じ本にふたつの手がかけられた。指先が触れて慌てて横を見るとそこには彼女がいた。

「あ、ごめんなさい。お先にどうぞ」
「いえ、僕はまだ大丈夫なので……」

 4年の片思いの末に会話したのがこれきりで、彼女は礼をしながら去って行った。
 数日後、同じ本を探しに行くとまだ貸し出し中で、和臣は少し悩み、受付の職員にたずねてみることにした。
 彼女は借りた翌日に返却していたようで、現在はその次の学生が借りているという。すると、たまたま図書室の受付で借りていた本を返却していた彼女が和臣に声をかけてきた。

「あの本の概要をノートに書き溜めたから、それを使って頂戴。あの時のお礼」

 微笑みながら彼女はかばんから一冊のノートを取り出した。はい、と差し出されたノートを受け取ると、彼女はにこりと微笑んで図書室から出て行った。

 そのノートを見ると、細かい字で概要と解釈まで書かれていて、おかげで卒論はすぐに出来上がった。すぐに彼女にノートを返そうと思ったのだが、結局ノートを返す機会が無いまま卒業した。

 今思えば彼女の知り合いにでも頼めば良かったことなのだが、どうしても自分から彼女に返してお礼を言いたかった。そしてその時告白しようとも和臣は考えていた。

 だが結局タイミングもあわず、その後ふたりは別々の法科大学院へ進むことになり、会うこともないままでいた。
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