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幸せの時効
第8章 真実

私が19になった春の終わり、一人の講師に恋をした。初めての恋で、その人の姿を大学で見掛ける度に心が躍った。声を聞く度、鼓動が響き、その人と手が触れた日は眠れなかった。
湯島のどこが良かったのか、分からない。あえて言うなれば、少し危うさを帯びた彼の瞳だったかも知れない。法を説きながら、その法を破ろうとするどこか危うげなバランスに私は心を奪われた。夏の初めに彼と二人で図書館で探し物をしていたとき、私は彼に抱き締められた。汗のにおい、本の香り、蝉の鳴き声が響く中初めてのキスをした。二人とも饒舌な 性質(たち)ではないので、ろくに言葉を交わすこともないままに道をはずした。
湯島に言わせればこの時自分はおかしかったと手紙には書かれていた。彼の妻が自分以外の男の子供を胎み、誰でもいいから縋りたかったのだと。そしてたまたま私が居て、そのまま縋ったところ心を奪われたと書かれていた。
湯島は私と出会う三年前に見合いで結婚した。なかなか子供が出来ないため妻は不妊治療を始めたところ、湯島に問題があったのだと書かれていた。彼の生殖機能がほぼ機能しておらず、彼の妻が望む妊娠のためには、今の日本では養子縁組しか方法がないと言われたそうだ。だが、妻は湯島の血を引く子供が欲しいと、あろうことか湯島の弟と情を重ね、子供を妊娠する。
それを知った湯島は妻と弟に裏切られたと絶望したそうだ。だが、その原因を突き詰めれば全ては自分のからだのせいで、怒りと哀しみは彼の中にどんどん溜まる一方だったらしい。
そのはけ口に私を選んだ。自分を裏切らない存在が欲しかったと書かれていた。
だが、湯島の心に変化が生まれた。彼の書き方では、私が余りにも純粋に自分を求めるものだから、それを利用した自分に罪悪感を感じたようだ。そしてそれを愛しいと思い始めたとき、新しくやり直したいと願っていたと。
湯島のどこが良かったのか、分からない。あえて言うなれば、少し危うさを帯びた彼の瞳だったかも知れない。法を説きながら、その法を破ろうとするどこか危うげなバランスに私は心を奪われた。夏の初めに彼と二人で図書館で探し物をしていたとき、私は彼に抱き締められた。汗のにおい、本の香り、蝉の鳴き声が響く中初めてのキスをした。二人とも饒舌な 性質(たち)ではないので、ろくに言葉を交わすこともないままに道をはずした。
湯島に言わせればこの時自分はおかしかったと手紙には書かれていた。彼の妻が自分以外の男の子供を胎み、誰でもいいから縋りたかったのだと。そしてたまたま私が居て、そのまま縋ったところ心を奪われたと書かれていた。
湯島は私と出会う三年前に見合いで結婚した。なかなか子供が出来ないため妻は不妊治療を始めたところ、湯島に問題があったのだと書かれていた。彼の生殖機能がほぼ機能しておらず、彼の妻が望む妊娠のためには、今の日本では養子縁組しか方法がないと言われたそうだ。だが、妻は湯島の血を引く子供が欲しいと、あろうことか湯島の弟と情を重ね、子供を妊娠する。
それを知った湯島は妻と弟に裏切られたと絶望したそうだ。だが、その原因を突き詰めれば全ては自分のからだのせいで、怒りと哀しみは彼の中にどんどん溜まる一方だったらしい。
そのはけ口に私を選んだ。自分を裏切らない存在が欲しかったと書かれていた。
だが、湯島の心に変化が生まれた。彼の書き方では、私が余りにも純粋に自分を求めるものだから、それを利用した自分に罪悪感を感じたようだ。そしてそれを愛しいと思い始めたとき、新しくやり直したいと願っていたと。

