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幸せの時効
第10章 永遠
 私と湯島はマンションに住み始めた最初の夜同じベッドで眠った。抱きあいながら互いの15年を振り返り、何度も唇を重ねた。
 心と体は彼を求めていたけれど、彼はまだ自分を抑えていたようで、検査結果が出た夜、彼は自分の雄を『解禁』した。

「とりあえず良かったわ」
「なんだか、恥ずかしいな。俺はやはり臆病者ということか……」
「仕方がないわよ。誰だって余命宣告されたら動揺するわよ。それに不妊治療だって同じ事。自分の体に原因があったなら、自分がこの世に生まれた意味を考える人も居るくらいだし」

 医療に携わることで見えた『命の世界』。自分の命の短さを告げられると、人は己の弱さを知る。それを見てきたからこそ、湯島の動揺がわかる。それらは恐らく彼から自信を奪っていった。
 自信に満ち溢れ、魅力的だった男が、今では頼りなげな男になったほどだ。

 私が彼に出来ること、彼の自信を取り戻してあげたい。

「……抱いて……」

 湯島のパジャマの裾をひっぱる。可愛らしいと言われる年ではないのだけれど、彼と居ると心が19才に戻ってしまう。顔がかあっと熱を帯びて、彼の答を待った。

「ゆず……、飢えた俺にみすみす餌を与えたら、どうなるか分かってるだろ?」
「いいの……、私もあなたに飢えてるから……」

 湯島は私の言葉を聞いたあと、長いため息をついた。

「あの時ほど頑張れる体力はないが……」
「あ……っ」
「お前の体のことは知り尽くしてるから、じっくり味わわせて貰うぞ」

 湯島の手が私の背中をなぞる。心と体が彼を求めていた。
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