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幸せの時効
第2章 本気

「さて、続けようか」
彼は足を組み直し、またテキストの文字を目で追っていた。沈黙がこんなに重苦しいとは思わなかった。早く時間が過ぎてくれれば良いとさえ思っていたほどだ。ちらと彼の左手を見やる。あの時の子供が中学を卒業したから離婚したと言っていた。そして自分を愛してしまったからだと。誰かの不幸の上に自分の幸せはあってはならない。その前に15年前自分は心を捨てたのだから。
もう二度とここへは近づいてはいけない。また15年前のように心が揺れる。
「……もう……ここへは来ません。失礼します」
ソファから立ち上がり、一目散にドアに向かった。すると目の前に大きな手のひらが見えた。ドアを押さえられた。
「本気だと言ったはずだ、ゆず……」
怒気を胎んだ低い声に思わず身が竦む。
「私はもう、気持ちはありません。やめてください」
喉が引き攣り、振り絞るように声を出した。自分の声が震えているのが分かる。お願いだからもう辞めて欲しい、こんなことは。
「嘘だ……、ならどうしてこんなに震えている」
背中に彼の体温を感じた。15年ぶりの温もり。抱きしめられて、私はまた泣き崩れていた。
彼は足を組み直し、またテキストの文字を目で追っていた。沈黙がこんなに重苦しいとは思わなかった。早く時間が過ぎてくれれば良いとさえ思っていたほどだ。ちらと彼の左手を見やる。あの時の子供が中学を卒業したから離婚したと言っていた。そして自分を愛してしまったからだと。誰かの不幸の上に自分の幸せはあってはならない。その前に15年前自分は心を捨てたのだから。
もう二度とここへは近づいてはいけない。また15年前のように心が揺れる。
「……もう……ここへは来ません。失礼します」
ソファから立ち上がり、一目散にドアに向かった。すると目の前に大きな手のひらが見えた。ドアを押さえられた。
「本気だと言ったはずだ、ゆず……」
怒気を胎んだ低い声に思わず身が竦む。
「私はもう、気持ちはありません。やめてください」
喉が引き攣り、振り絞るように声を出した。自分の声が震えているのが分かる。お願いだからもう辞めて欲しい、こんなことは。
「嘘だ……、ならどうしてこんなに震えている」
背中に彼の体温を感じた。15年ぶりの温もり。抱きしめられて、私はまた泣き崩れていた。

