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小田桐菜津子と七つの情事
第1章 最初の情事
「気持ち、いいですね」
うつ伏せの彼女から、声が聞こえる。
「それだけ身体が固まっていた、ということです」
「本当に少しも痛くないんですね」
「痛いのがお好みですか?」
少し冗談を交えて答えると、彼女も小さく笑ってくれた。
「痛いの無理です。でも、こんな風にしてるだけで、なんだか身体が温まってきます」
「リンパの巡りが良くなりますからね」
この仕事をしていると、人間の身体があらゆる蝶番(ちょうつがい)で構成されているのが理解できるようになる。だから逆に、関節のどこにどの角度で力を入れると、人間が痛みを覚えるかも分かってくる。
「疲れがたまると、寝ている時にこむら返りを起こすことがありませんか?」
「え?」
少し驚いた声が、うつ伏せの彼女から帰ってきた。
「そんなこともわかるんですか?」
「足首の負担が大きいですからね」
そういいながら、腰の手を足首に移す。彼女に断りを入れて、足首にタオルをかけ、左右のかかとを手のひらで包む。素足の肌に触れぬための配慮だ。
女性の顧客の部屋に男性がひとりで入るという時点で既にかなり振る舞いには注意を必要とされる。少しも性的なニュアンスが生まれぬよう、細心の気遣いを払うのがプロの仕事だ。