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小田桐菜津子と七つの情事
第4章 四人目は同級生
横断歩道の向こうには、新幹線開通とともにできたモダンなシティーホテルが建っている。古ぼけたこの街に似つかわしくない、スマートな佇まいの建築物だ。
「洒落たとこに泊まってるんだな」
歩行者用信号の向こうに建つそのホテルを見ながら、オレは言った。
「もう実家もないこの街だから、仕方がないのよ」
「そうだな。そういえばそう言ってたよな」
ゆるやかに夜の気配が消えゆく街。
東の山の稜線に、ほんのりとブルーの光が差している。
夜が昨日になり、新しい朝が、やってきつつあった。
向かいの歩行者用信号が、赤から青に変わる。
手をつないだオレたちは、道路の向こう岸に向かって歩き始めた。
オレは緊張していた。柄にもなく。
「お前の部屋に上がらせてくれないか?」
夜明け前の風に小さく背中を押されて、オレは想いを口にできた。
フフ、と鈴村は小さく笑った。
「ダメよ、笛木君。もうダメ」