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小田桐菜津子と七つの情事
第5章 五人目の戸惑い
矢上:ヤバいですよ
八朔:平気よ。向こうの席のおじいさまは、もうぐっすりだから
矢上:でも
八朔:こんな変態は、きらい?
ほら、顔を上げて、こっちを見て
スマホの画面から目を上げる。
彼女と目があった。
とても変態には見えなかった。
そしてこんなチャンスは二度とないと、ぼくは知った。
彼女の目が、潤んでいた。
ごくり。
ぼくは喉を鳴らしてしまう。頭の中でその音が異様に大きくひびく。
あぁ、やばい。
気づかれちゃう。
ぼくは焦った。
すると彼女は目線を外し。それからかがみこんで、足元にあったバッグからグレーのカーディガンを取り出した。そのカーディガンを隣の席のぼくのへそのあたりにサッとかけた。
なにを、する?
焦る気持ちと戸惑い。
彼女は、ぼくと彼女の椅子を隔てているひじ掛けを持ち上げて格納した。そして、ゆっくりと、ぼくの肩にしなだれかかってきた。
彼女の重み、彼女の熱、彼女の柔らかさと息づかい、そして甘い髪の香りが、ぼくの左肩に重なった。
あぁ…。
ぼくは身を固くしつつ、彼女の肩におぼれた。
もうなにも、考えられない。