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小田桐菜津子と七つの情事
第5章 五人目の戸惑い
初めて降りる地方都市の、初めて見る街。
新幹線の開業とともにきれいに整備された駅前は、まだ少しも風景に馴染んでいない。ピカピカの空疎な風景。
少し曇り空。
八朔さんと肩を並べて歩く。
手をつながれると、もう何かを話さなくてもいい気がする。彼女の少し冷たい手のひらの温度。夏の終わりの、でもまだ残暑がしっかり残る暑さ。
駅のロータリーに面したシティーホテルに入り、ぼくはロビーのソファーに座らされた。
八朔さんがカウンターで手続きをし、ふたりでエレベーターの箱に収まった。
エレベーターの扉が開き、絨毯がフカフカする静かな廊下。彼女に手を引かれて歩く。そして目当ての部屋の前。カードキーをノブ脇の金属のプレートにかざすと、カチリと音がして、小さなグリーンのランプが灯る。
ぼくたちは部屋の中に入った。
ぼくの大きなバッグと、彼女の一泊用の小さめのバッグを置き、彼女はぼくに向き直った。
玄関のドアを閉めたそこで、彼女はぼくに口づけしてきた。
ぼくはされるがまま、顔をかしげて彼女と鼻先を寄せ合い、唇を委ねた。