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小田桐菜津子と七つの情事
第6章 痛みを覚えた六人目
このホテルに泊まって最初の週末だった。
金曜の夜。明日は撮休だと聞いていた。
土日に休むなんて、のんびりした地方のロケはいいな、と思い久しぶりに酒を飲むことにした。
スタッフの誘いを断って、ひとり、このホテルの最上階のバァだった。
「あちらの方が、ご一緒してもよろしいでしょうか?、と」
アイランドキッチンになっている最上階のバァラウンジ。そのアイランドに設(しつら)えられたバァカウンターで、ポーランドのウオッカを飲んでいた。
キリリと冴えた透明な酒。
瓶の中に一本の松の葉のような長い尖った草が入っている。ハーブの効能を持つその草のおかげで、無味無臭のウオッカに程よい香りが混じる。
ウオッカという酒は、人を鎮静させる効果がある。
ま、そもそも根の暗い性格俳優の自分にとって、鎮静も何もないが。
北の街のバァで、ひとりで黙って飲む酒として、ふさわしい。
小皿に出されたナッツをつまみながら、その静かな時間を楽しんでいた。
無遠慮なその声かけがされるまで。
見ると、アイランドの向こう側から30代の女がこちらに会釈してきていた。とりたてて美人ではないが、おだやかに微笑みかけるその余裕が面白そうだった。
ひとつ頷いて、同席を許した。
「ーーさんですよね?」
と、女は私の名を呼んだ。