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小田桐菜津子と七つの情事
第6章 痛みを覚えた六人目
私と知って声をかけてきたのか。東京ならいざ知らず、こんな地方でそんなことがあるのかと少し驚いた。
「こんなところで僕を知っている人がいるなんて」
「私、東京からなんです」
「それでか」
「見てますよ、路地裏エクスプレス」
それは私が出演している深夜のショートドラマだ。関東ローカルでしか放送していない。
古い風情の残る東京の下町、清澄白河のバァを舞台にしたハードボイルド風人情話という不思議な手触りのドラマだった。
そこでの私の役どころは、店の常連である商店街の古道具屋のオヤジだった。でも店は片手間で、官能小説を書き飛ばしてあら稼ぎしている不良中年。なかなかユニークなキャラクターだ。
「毎回台本をもらうたびにヤバいセリフが並んでいて、放送できるのかヒヤヒヤしてるんですよ」
私のようなつまらない俳優でも、ファンサービスは必要だろう、思っていた。
「こう言ってはなんですけど、ーーさんがとても楽しそうに演じておられる感じがして、私大好きなんです」
「確かに。アレは当て書きでしてね、」
「当て書き?」
「劇作家が演者を決めて書くことです。あのシナリオライターはぼくが小劇団にいた頃からの付き合いでね、ぼくが変態であることをよく知ってるんですよ」
「変態って」と言って女は笑ってくれた。