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小田桐菜津子と七つの情事
第6章 痛みを覚えた六人目
「何を飲んでいらっしゃるんですか?」
こちらのグラスを見て、女が言う。
「ズブロッカ」
「どんなお酒?」
「お酒は好き?」質問に、質問で答えた。あまり褒められたマナーではない。
「ーー好きです」
面と向かってそう答えられる度胸も良い。
私は黙ってグラスを進めた。
「なら、飲んでごらん」
面食らった顔の女。
私は何も言わず、黙ってその表情を見た。
誘いに応じるなら良し。
応じないなら、またひとりでしっとり飲める。
女はそのロックグラスを手に取り、そっと口へ運んだ。
飲む前に少しだけ、匂いをかぐ。
ん、という表情。
「桜餅。思い出すでしょう?」
女の顔が華やぐ。
彼女はグラスを傾けて、氷の間から流れてくるウオッカを口に含んだ。
40度と、それなりのアルコール度数の高さだが、少し溶けかかった氷のおかげで、そんなにキツくはないはずだ。
女はグラスをカウンターを置いた。アイランドキッチンの向こう側にいたバァテンダーを呼ぶと、
「私にも、ズブロッカを」
とオーダーした。