この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
小田桐菜津子と七つの情事
第7章 最後の情事
あぁ。
その言葉に、ぼくは何も考えずに反応してしまった。
今にして思えば、あの時もっと彼女をいたわったら。あの時もっと、妻を抱きしめられたら。
でもダメだったろう。
そこでぼくがどんなにやさしく彼女を包み込もうと、彼女はきっとぼくに心を開けなかったろう。ぼくへの疑いの心を解きほぐすことなんて、できなかったろう。
全ては、後の祭りなのだから。
「小田桐くん、誰かと付き合ってる?」
胃の縁が、キューっとすぼまった。
頭が真っ白になって、口の中がカラカラになった。
そして、そんな日が来ることを、心の底で何度も何度も想像してきた。頭の中で安全装置のスイッチが入り、心と身体は切り離された。
ぼくの手は、コンマ数秒凍り、そしてすぐに別の回路が元どおりの仕草を続けさせた。
なっちゃんの肩の素肌をそっと撫でながら、ぼくは言った。
「誰とも付き合ってなんかないよ」
こんな時、『何故そういうか』なんて言ってはいけない。まず否定し、相手の心の不審を取り払うべきだ。
「そんなこと、心配してたの?」
肩をそっと撫でながら、彼女の固まった身体と心を懸命にほぐそうとしていた。