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小田桐菜津子と七つの情事
第7章 最後の情事

あぁ。
その言葉に、ぼくは何も考えずに反応してしまった。
今にして思えば、あの時もっと彼女をいたわったら。あの時もっと、妻を抱きしめられたら。
でもダメだったろう。
そこでぼくがどんなにやさしく彼女を包み込もうと、彼女はきっとぼくに心を開けなかったろう。ぼくへの疑いの心を解きほぐすことなんて、できなかったろう。
全ては、後の祭りなのだから。

「小田桐くん、誰かと付き合ってる?」

胃の縁が、キューっとすぼまった。
頭が真っ白になって、口の中がカラカラになった。
そして、そんな日が来ることを、心の底で何度も何度も想像してきた。頭の中で安全装置のスイッチが入り、心と身体は切り離された。
ぼくの手は、コンマ数秒凍り、そしてすぐに別の回路が元どおりの仕草を続けさせた。

なっちゃんの肩の素肌をそっと撫でながら、ぼくは言った。

「誰とも付き合ってなんかないよ」

こんな時、『何故そういうか』なんて言ってはいけない。まず否定し、相手の心の不審を取り払うべきだ。

「そんなこと、心配してたの?」

肩をそっと撫でながら、彼女の固まった身体と心を懸命にほぐそうとしていた。
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