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よくある恋愛モノ 〜見えない心〜
第6章 ここにいない人
繋いだ手の温もり
はにかんだ笑顔
重ねた唇の感触
似ているようで、全てが違う−−−
何より二人を比べてしまうことが彼に強い罪悪感を抱かせていた
“駄目だ”
凪は頭を振って立ち上がり、心の靄を流そうと風呂場へ向かった
悠の匂いが残る服を脱ぎ捨て、白い肌が露になる
野球部の頃はもっと焼けていたが、強くしなやかな筋肉はあの頃と変わらない
ただそれは健康的な運動によってではなく、他人を痛めつけることで保たれた肉体美だった
キュッ
蛇口を捻り、頭からシャワーを被る
まだ冷たい水が頭を整理するのにちょうどよかった
あの日、美和と同じ眼差しで見つめられ、求めずにはいられなかった
自分を受け入れてくれる人の温もり
そして一度求め出したら全てを欲さずにはいられない
美和と同じ笑顔
美和と同じ言葉
それはあり得ないのだと頭では分かっていた
だが今日それを初めて心で感じ、もう逃げ道はないのだと思い知った
この空虚は美和自身でなければ埋められない
それでも美和はもういないのだという現実から目を背けようとすればするほど、彼女の面影ははっきりと凪の前に姿を現した