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奥手なオークが貞操の危機!?
第1章 1
翌朝、少し早起きした彼は熱めの風呂を立てて身を清めた。
衣装ケースから入学式のときに仕立ててもらったスーツを引っ張り出し、少し湯気の立つ肌に真っ白いワイシャツを着る。
ベオは……このスーツがあまり好きではない。
自分を実の子として育ててくれた養父母は、正式な場に行くときには正装というものがあるのだといって折々にスーツを仕立ててくれた。それは養父の商談関係の場に同席するときや、養母とちょっとした会食に呼ばれたときなど、よそ行きとして必ず着せられたものだ。
だから彼はスーツの着こなしというものが身についている……身についているがゆえの悲劇というのも、この世には存在するのだ。
「やっぱり、この格好はみっともないかな」
小さな鏡を覗き込んで、ネクタイを締めながらチェックする。
ダーク系のスーツに合わせて選んだ明るい青色のネクタイはさわやかで、結び目は角が立つほどにきっちりと作られている。そのすぐ上には真っ白な襟が、これまた行儀よく乱れのひとつもない様子で整えられてまぶしい。
しかし、そんな清潔感ある服装の上をみれば、豚鼻獣面の奇怪な顔がのっているのだ。
「やっぱり、『モブおじさん』っぽいかな……」
それは高校生のころの彼のあだ名である。
モブおじさんとは、年頃の少年がオカズにするような低俗な本に登場するキャラクター類型のひとつだ。それは主に異世界ものと呼ばれる鉄とコンクリートの文明世界を描いた作品に登場するもので、『電車』という定期大量輸送手段にのって仕事に行くのが基本スタイルである。
もちろん読書家であるベオは、そうした低俗本にも目を通したことはある。好んでは選ばないというだけで、避けていたわけではない。
そこに書かれている『サラリーマン』という種族であるモブおじさんは、これこそまさに陵辱者の代名詞でもあった。
美男美女が習いであるはずの書物の世界においてさえ、モブおじさんは醜い。その容姿はたいていが太ってだらしない腹を抱えた中年親父であり、顔もたっぷりと肉がついてその真ん中に小さく顔のパーツが寄っている。それに、サラリーマンという種族に限っては、常にスーツを身に着けているのだ。
衣装ケースから入学式のときに仕立ててもらったスーツを引っ張り出し、少し湯気の立つ肌に真っ白いワイシャツを着る。
ベオは……このスーツがあまり好きではない。
自分を実の子として育ててくれた養父母は、正式な場に行くときには正装というものがあるのだといって折々にスーツを仕立ててくれた。それは養父の商談関係の場に同席するときや、養母とちょっとした会食に呼ばれたときなど、よそ行きとして必ず着せられたものだ。
だから彼はスーツの着こなしというものが身についている……身についているがゆえの悲劇というのも、この世には存在するのだ。
「やっぱり、この格好はみっともないかな」
小さな鏡を覗き込んで、ネクタイを締めながらチェックする。
ダーク系のスーツに合わせて選んだ明るい青色のネクタイはさわやかで、結び目は角が立つほどにきっちりと作られている。そのすぐ上には真っ白な襟が、これまた行儀よく乱れのひとつもない様子で整えられてまぶしい。
しかし、そんな清潔感ある服装の上をみれば、豚鼻獣面の奇怪な顔がのっているのだ。
「やっぱり、『モブおじさん』っぽいかな……」
それは高校生のころの彼のあだ名である。
モブおじさんとは、年頃の少年がオカズにするような低俗な本に登場するキャラクター類型のひとつだ。それは主に異世界ものと呼ばれる鉄とコンクリートの文明世界を描いた作品に登場するもので、『電車』という定期大量輸送手段にのって仕事に行くのが基本スタイルである。
もちろん読書家であるベオは、そうした低俗本にも目を通したことはある。好んでは選ばないというだけで、避けていたわけではない。
そこに書かれている『サラリーマン』という種族であるモブおじさんは、これこそまさに陵辱者の代名詞でもあった。
美男美女が習いであるはずの書物の世界においてさえ、モブおじさんは醜い。その容姿はたいていが太ってだらしない腹を抱えた中年親父であり、顔もたっぷりと肉がついてその真ん中に小さく顔のパーツが寄っている。それに、サラリーマンという種族に限っては、常にスーツを身に着けているのだ。