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凍える月~吉之助の恋~
第1章 【第一話 凍える月~お絹と吉之助~】 一
一
月が中天に煌々と輝く宵であった。
お絹はふと立ち止まり、空を見上げた。
漆黒の夜空に丸い銀の月が浮かび、玲瓏とした光を地上に投げかけている。十五夜のせいか、足許の小石まで見えるほどの明るい月夜だった。
既に夜四ツ(午後十時)はかなり過ぎている。今夜は父参次が生きていた頃からの馴染み客が二人、連れ立ってわざわざ店に寄ってくれた。豆腐屋と大工という、どちらも三十過ぎの男たちだが、今度、豆腐屋の松二が故郷(くに)へ帰るというので、暇乞いにと顔を見せてくれたのだ。
松二は大坂の出で、江戸に出てきて所帯を持った。お絹の父を〝兄ィ〟と実の兄のように慕い、繁く通ってきてくれた客の一人だ。
月が中天に煌々と輝く宵であった。
お絹はふと立ち止まり、空を見上げた。
漆黒の夜空に丸い銀の月が浮かび、玲瓏とした光を地上に投げかけている。十五夜のせいか、足許の小石まで見えるほどの明るい月夜だった。
既に夜四ツ(午後十時)はかなり過ぎている。今夜は父参次が生きていた頃からの馴染み客が二人、連れ立ってわざわざ店に寄ってくれた。豆腐屋と大工という、どちらも三十過ぎの男たちだが、今度、豆腐屋の松二が故郷(くに)へ帰るというので、暇乞いにと顔を見せてくれたのだ。
松二は大坂の出で、江戸に出てきて所帯を持った。お絹の父を〝兄ィ〟と実の兄のように慕い、繁く通ってきてくれた客の一人だ。