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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話 【はまなすの子守唄】 一
「只今」
小さな声で言って家に入ったお絹は絶句した。
四畳半ひと間の家の中は見回してもせいぜいが知れている。お彩を寝かせていたはずの小さな布団はもぬけの殻であった。
「お彩、お彩ッ」
お絹は気が狂ったようにお彩の名を呼んだ。触ってみると、寝床はまだほんのりと温かかった。ほんの少し前、ここからお彩を連れ出した人間がいるのだ。
―でも、一体誰がお彩を?
名の知れた大店の娘ならともかく、その日暮らしの夜泣き蕎麦屋の子をさらったとて益はない。つまり、これは身代金なぞが目当ての誘拐ではないということだ。では、子ども欲しさの人間の犯行であろうか。
小さな声で言って家に入ったお絹は絶句した。
四畳半ひと間の家の中は見回してもせいぜいが知れている。お彩を寝かせていたはずの小さな布団はもぬけの殻であった。
「お彩、お彩ッ」
お絹は気が狂ったようにお彩の名を呼んだ。触ってみると、寝床はまだほんのりと温かかった。ほんの少し前、ここからお彩を連れ出した人間がいるのだ。
―でも、一体誰がお彩を?
名の知れた大店の娘ならともかく、その日暮らしの夜泣き蕎麦屋の子をさらったとて益はない。つまり、これは身代金なぞが目当ての誘拐ではないということだ。では、子ども欲しさの人間の犯行であろうか。