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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話 【はまなすの子守唄】 一
それでも伊八はなお面白くなさそうな顔で頷いた。留七は伊八に掴まれて乱れた衿許を腹立たしげに直してから口を開いた。
「俺の女房はお縞(しま)といって、玄武で生まれ育った者だ」
「手前の女房がどこで生まれたかなんざァ、俺達には拘わりのねえ話―」
早くも言いかけた伊八の袖を再びお絹が引っ張る。ふと振り返った良人にお絹は眼顔で訴えた。
―今はこの人の話をちゃんと最後まで聞きましょう。
伊八が不承不承頷いて、留七を見る。
「お縞と俺はひと月ほど前に別れたんだ。所帯を持って七年になるが、子どもに恵まれなかった。あっしは甲斐性のねえ桶職人でたいした稼ぎもなかったが、夫婦仲は悪くはなかったと今でも思ってる」
「俺の女房はお縞(しま)といって、玄武で生まれ育った者だ」
「手前の女房がどこで生まれたかなんざァ、俺達には拘わりのねえ話―」
早くも言いかけた伊八の袖を再びお絹が引っ張る。ふと振り返った良人にお絹は眼顔で訴えた。
―今はこの人の話をちゃんと最後まで聞きましょう。
伊八が不承不承頷いて、留七を見る。
「お縞と俺はひと月ほど前に別れたんだ。所帯を持って七年になるが、子どもに恵まれなかった。あっしは甲斐性のねえ桶職人でたいした稼ぎもなかったが、夫婦仲は悪くはなかったと今でも思ってる」