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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】
「―ありがとうよ」
お絹は呟くような声に、突如として現実に引き戻された。ハッとして傍らの喜作を見ると、満々とした川を凝視する喜作の皺深い目尻にうっすらと光ものがある。
「親方―」
お絹は言葉を失い、喜作を見つめた。今、眼の前にいるのは、かつて名人と謳われた偏屈な職人ではない、ただ一人の年老いた男にすぎなかった。小柄な背を屈めるようにして握りしめた右手の杖がわずかに震えている。
「この川でわしは子どもの頃、何度となく水遊びをしたことがある。ゆっくりと流れているようじゃが、存外に流れは速く水も冷たい。ここで水遊びをした何人もの子どもが犠牲になった。
お絹は呟くような声に、突如として現実に引き戻された。ハッとして傍らの喜作を見ると、満々とした川を凝視する喜作の皺深い目尻にうっすらと光ものがある。
「親方―」
お絹は言葉を失い、喜作を見つめた。今、眼の前にいるのは、かつて名人と謳われた偏屈な職人ではない、ただ一人の年老いた男にすぎなかった。小柄な背を屈めるようにして握りしめた右手の杖がわずかに震えている。
「この川でわしは子どもの頃、何度となく水遊びをしたことがある。ゆっくりと流れているようじゃが、存外に流れは速く水も冷たい。ここで水遊びをした何人もの子どもが犠牲になった。