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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】 
親たちは子どもにこの川に入ってはならねえと口うるさく言ったが、子どもたちは言うことなんか聞かねえで、構わず川に入って遊んだ。ある時、わしもこの川で溺れかけたことがあってな」
 喜作はここでひとたび口をつぐんだ。二人は今、川を挟むようにしてひろがる川原に佇んでいた。対岸までは大の大人でも泳いで渡るのは容易ではなさそうな距離だ。喜作の口ぶりでは、穏やかそうに見えても、流れが速いというから、泳ぎの達者な者でも難しいのかもしれない。
 川原には薄が一面に群生し、秋たけなわの今は黄金色の穂を重たげに垂れていた。その薄の波に混じって所々に女郎花が黄色い可憐な花を咲かせているのがそこだけ色鮮やかに見える。いずれも秋の七草に数えられる花だ。時折、秋の風が緩やかに吹き渡ると、薄がさわさわと音を立てて揺れた。
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