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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】 
「死ぬ前に一度、故郷を見て、せめて冥土のみやげにしてえと思っていたが、どうやら、わしが本当に見たかったのは、ここからの眺めのようだなあ」
 その言葉に、お絹は愕いたように喜作を見た。と、喜作が皺に埋もれた細い眼をいっそう細めた。
「もう、これで思い残すことは何もねえ」
 その呟きは心の底からのもののように思われた。その時、お絹はハッとした。
 喜作にとって恐らく生い立った故郷の村よりも、この川の方がよほど身近な「ふるさと」を感じさせるものなのだろう。早くに実父を失い、冷たくあしらわれた義父との想い出が残る村よりも、母に抱きしめられて愛されていると確信したこの川原の方が少なくとも彼には故郷を象徴させるものなのだろう。
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