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凍える月~吉之助の恋~
第15章 第六話 【対岸の恋人】  弐
 喜作が思わず両手で顔を覆った。
「馬鹿なことをする」
 その絶望に満ちた声に、女は助からないという言外の響きが込められていた。お絹は祈るような気持ちで女の姿を見つめた。
 だが、なにゆえ、水の溢れた川にわざわざ飛び込むようなことを女がしでかしたのか。
 喜作の言うように、死ぬつもりならば、何もこんな大勢の見物人の前で飛び込む必要はないだろう。人気のいない隙を見計らって入れば良いはずだ。何故、どうしてという疑問がお絹の胸の中で昨夜の嵐のように渦巻いた。
「あっ」
 見物人の一人が悲鳴を上げた。あと少しで川を渡り切ると思われた女の姿が突然、水面に呑み込まれたのだ。
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