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凍える月~吉之助の恋~
第4章 第二話 【鈴の音】 一
一
お絹は思わず吐息を洩らし、慌てて周囲を見回した。お絹の他には共同井戸には誰も姿は見えない。今は昼下がり、長屋の女たちも多くは家の中にいるか、出掛けているかのどちらかに相違なかった。もっとも、お絹はそれを見越して表に出てきたのだ。今はできるなら、あまり他人と接するのは避けたい。
赤子の泣き声が聞こえてくる他は、長屋はひっそりとしている。あの声は先月生まれたばかりの左官の権六のところの赤ン坊に相違ない。そんなことを考えていると、再び吐き気がせり上げてきて、お絹は両手で口許を覆った。つい今し方もひどい吐き気に見舞われ、実際にもう少しで吐いてしまうところだった。
お絹は思わず吐息を洩らし、慌てて周囲を見回した。お絹の他には共同井戸には誰も姿は見えない。今は昼下がり、長屋の女たちも多くは家の中にいるか、出掛けているかのどちらかに相違なかった。もっとも、お絹はそれを見越して表に出てきたのだ。今はできるなら、あまり他人と接するのは避けたい。
赤子の泣き声が聞こえてくる他は、長屋はひっそりとしている。あの声は先月生まれたばかりの左官の権六のところの赤ン坊に相違ない。そんなことを考えていると、再び吐き気がせり上げてきて、お絹は両手で口許を覆った。つい今し方もひどい吐き気に見舞われ、実際にもう少しで吐いてしまうところだった。