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木之花ノ夜想曲~夢語り~
第13章 "心"
此処だけが別世界のよう…
偶にすれ違う人も、皆穏やかな顔をして歩いている。
「うわぁーー!!」
延々と伸びる竹林の道、緑色一色の中に垣根の道が続いている。
「本当に時を忘れられた気持ちになりますねー」
「でしょう?
私のお気に入りの場所です、めったに来れないのが玉に瑕ですがね」
「ぁはは…
毎日嵐山に来てたら仕事になりませんよ」
クスクス笑い総司を見ている瑠衣、その顔は何時になく穏やかだ。
(やはり無理をしてでも連れて来て正解でしたね)
疲れが溜まっているのに長時間歩かせるのはと考えたが、どうしても瑠衣を此処に連れて来たかった。
(少しでも癒やしになれば良いのですが…)
目の前の瑠衣は楽しそうな顔をして竹林道をゆっくり歩いている…
最近の顔色の悪さも、普段の少し思慮深い顔も今は何処にも無い。
「沖田さん、竹林道の中にも小さな寺とかがあるんですね」
「えぇ…
元は誰かの別邸だったり、世俗から離れた方が住んで居た場所らしいですよ?」
「へー
こんな所にひっそり暮らすのも良いかもしれませんね…」
あの広大な外宮に住んでいる自分には、そんな世捨てみないな素朴な生活がうらやましい。
別に朱雀としての自分が嫌という訳では決して無いが、四六時中気を張って過ごすというのは、思っている以上に精神的負担になっている自分が居る。
奥宮は気の許せる者しか居ないから楽だが、一日の半分以上を正式な執務となる表宮で過ごす時間は一時も気が抜けない、理想の朱雀像…思っているより重く自分にのし掛かっているようだ…
我ながら幕末に来て今更気づいた事である。
「橘さんは、こういう生活が憧れですか…?」
「はい、誰にも邪魔されず静かに自分を見詰め直すには打ってつけですね…」
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