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木之花ノ夜想曲~夢語り~
第20章 "追"
素知らぬ顔で廊下を歩いていると、向こうから斎藤が歩いて来た。
「斎藤さん」
「橘か、最近は夜はどうだ?」
斎藤と組んで夜勤したのが結構前の話に思える。
「相変わらずですよ…
数こそ少なくなりましたが、やはり居なくはなりませんから」
「そうか…」
「斎藤さんはどちらへ?」
斎藤が向かっていたのは自室とは反対側だが?
「昼餉を取りに炊事場だ」
「そうですか、すみません邪魔した様で…」
「いや、急いではいないのでな…
ではな」
「はい…」
斎藤は炊事場に向けて歩みを再開した。
(相変わらず口数少ないなぁ…
あれで意外に優しいんだけど…)
斎藤の性格は十分理解している…
口数こそ少なく無関心に見えるが、ちゃんと見る所はしっかり見てるし、手を差し延ばしてくれる。
(もう少し話せば誤解も解けるのに…)
そんな考え事をしながら自室までの廊下を歩く。
自室に戻れば畳にお昼寝中の総司の姿が…
(はぁー
風邪引くでしょうに…)
羽織りを取って、そっと掛けてやる…
そして自分は今日の分の書類整理を密かに始めた、結局総司には弱い瑠衣である。
次の日、早速焔からの繋ぎの型代の鳥が飛んできた…
「意外に早いな…」
そう思いながら何時もの落ち合い場所に向かう…
壁に背を付け、例の如く待っていたら……
「ん‥???」
焔とは違う気配が此方に近づいて来る。
(・・・冗談‥でしょう…)
誰の気配かなんて直ぐ分かる、こんな気配を持つのは一人しか居ない。
「当代様…」
そこに現れたのは当代様本人、忙しい筈の当代様が何故か目の前に居る。
「なんだ…
我が来てはおかしいか??」
瑠衣の顔を見て、直ぐに何を思ったのか悟ったらしい。
「いえ、まさか当代様が来るとは思わなかったので少々驚いただけです」
「まぁ、偶々だ…」
偶々で当代様が現れては、此方の身が幾つあっても保たない……
「して用件だったな…」
当代様は袋を三つ瑠衣に差し出した。
「ありがとう御座います」
瑠衣は袋の中身を確認する…
まだ何も書いていない術符用の紙、透明な術石…
「もう一つ??」
少し大きな袋の中には、結界符・結界石・力の玉・八卦鏡・人型代の符・力の石などがぎっしり詰まっていた。