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木之花ノ夜想曲~夢語り~
第23章 "師"
「・・・・・・・・・・」
部屋に一人残された瑠衣は、そのまま動けず、まだ悲しい顔をしている…
咄嗟とはいえ、自分に入って来た山崎の心……
どれだけの思いを耐えて、山崎が出て行ったのか、痛い程分かってしまう…
(…だから、親しい人の心読みは…嫌なん…だっ!!)
思いが強ければ強い程、自分の意識とは無関係に相手の心が入って来てしまう…
自分がしっかりしてれば、ある程度は防げる事なのに、突然の山崎の行動に驚き、自分は完全に無防備になってしまった…
(山崎…さん……)
今の自分には山崎の気持ちが、どんなものか良く分かる…
だが、それには応えられない……
山崎は大好きだし、大切だと思う…
だが、それは友人・仲間としてだ!
決して、総司に対するような感情では無い…
だからこそ、今のあの山崎の感情が余計に苦しく辛く、そして悲しい……
(…ごめん…なさい…山崎さん)
何時までもこうしても居られない、瑠衣は俯きながら立ち上がり、多少覚束ない足取りで空き部屋を出た・・・
冷たい夜風が今の自分には心地良い…
全てを冷まして欲しい…
山崎の思いと共に……
暫く夜風に当たりながら、ただ辛く苦しい思いと共に庭を見ていたが…
その思いを断ち切るように、瑠衣は重い足取りで自室へと足を向けた・・・
一方、瑠衣から離れた山崎は、屋根の上に登って座っていた・・・
「糞っ…わいは…わいはっ…」
両手で顔を覆い、後悔の念に晒される…
どんなに思っても、橘の心が自分に向かないのは、十分分かっていた筈なのに…
それなのに、無理やり自分の心を橘に押し付けてしまった…
あれだけ傷付き、それでも沖田はんを守ろうとする橘…
自分が適う訳が無い…
「すまん……」
橘のあの切ない表情を見てしまった瞬間、自分を押さえられなくなった…
たった一度で良い、橘を自分のものにしたい…
そんな思いが、あんな行動に走らせた…
「ほんま‥堪忍や…
本当に何でも協力するさかい…わいを許してや…」
罪滅ぼしならば幾らでもする、自分はそれだけの事をしたのだから…
幾らでも橘に協力するし、味方もする。
屋根の下の廊下で、橘が立ち止まって居るのが分かる…