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木之花ノ夜想曲~夢語り~
第25章 "帝"
どれ程そうして庭を眺めていただろうか…
宮中女官が朱雀様を呼びに来た。
「瑠衣行くとするかの、焔そなたは此処で待て良いな」
「はっ…」
朱雀様と瑠衣は顔合わせの場になる、御所の大広間に向かった。
大広間ー
御簾の向こうには帝が鎮座している…
その直ぐ下には将軍家茂公、向かい合わせに朱雀様、その隣に瑠衣…
朱雀様の列に左右大臣、位の高い力の持った公卿達…
家茂公の列に尾張、紀州、薩摩、会津、それに大老共がずらりと並んで座っている。
話自体は大した事は無い、お互い腹の探り合いである…
何時だったか、総司に狸と狐と言ったが、今この時こそ、その言葉が一番合っている時だと思う。
「のう朱雀殿…
公武合体も果たし、ますます互いの仲も深まっておじゃる…
この仲良き時にお子がお産まれあそばせば、益々の発展が望めましょう」
「そうですな…
どの世でも公家との輿入れは世の習い、それに従うのもまた時の定めであろうて…」
無表情に公卿に話す朱雀様、確定的な事を言えない朱雀様ギリギリの示唆なのだが…
「朱雀殿、予と和宮に子が出来れば、公家と徳川の血を引く重要な子になろう、次の将軍職も…」
「私もそれを望んでおる、その為の我が和宮の輿入れ、そうでおじゃろう朱雀殿」
家茂公と帝のお言葉、他の者達は口を挟めない…
「確かに、子を為し次の将軍職に決まれば公家、徳川共に安泰だろうて…だが、いつの世も邪魔な横槍が入るのもまた常…
努々油断されるな…」
少々行き過ぎの朱雀様のその言葉に、大広間が長い間沈黙する・・・
「主上…」
仕方が無くだが、瑠衣は口を開く…
「なにぞ?」
「公家、徳川共それぞれ大切なものがありまする、それは互いに持ち得ないもの…
その二つが一つに成れば、より強い絆が生まれましょう」
曖昧な瑠衣の言葉…
その真意を探ろうと、公卿、大名達は瑠衣の方を一斉に見る。
「そなた名は?」
帝が瑠衣に聞いて来た…
「瑠衣と申します…
朱雀一族の一人にして、主上の縁者にて、筆頭女官を勤めさせて頂いております」
意外な人物の登場に、周りは瑠衣を推し量る…
だが、たかが公卿や大名共に負ける瑠衣でも無い。
優雅に微笑し、次々来る質問を軽く交わしていく………
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