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木之花ノ夜想曲~夢語り~
第25章 "帝"
夜ー
「そろそろ良いかのう…」
夜も、もうかなり遅い時間に成りつつある。
警備の者を抜かせば、もう就寝している者も多数いるだろうな時間…
此処に来て、朱雀様はやっと重い腰を上げた・・・
朱雀様と瑠衣は御所の中を静かに歩く…
渡り廊下を渡って、何処か別棟に入ってゆく…
「此処だ」
御所の間取りから考えて、此処は帝の私室兼寝所、つまり清涼殿の裏手に当たる場所になる筈。
朱雀様は、そんな事はお構いなしに中に入って行く…
瑠衣も黙ってそれに続いた。
「待たせたかの?」
薄明かりの中、畳の上に座り、じっと此方を見詰める御上(帝)、朱雀様と瑠衣も御上の反対側に座った。
お互い顔を見合わせての状態…
普通、御上が御簾の外に出て、他の者と顔を合わせる事はまず有り得ない、その有り得ない状況が今此処にある……
瑠衣は立場上の手前、顔を上げずひれ伏し礼の姿勢を取っている…
だが、雰囲気気配から、思っているより大らかで優しい印象を受けた。
「いえ朱雀殿、公卿達を抑えるのにこの時間まで…
瑠衣と言ったな、面を上げて良いぞ」
御上のその言葉に、瑠衣は漸く礼の姿勢から顔を上げる…
歳を重ねた者の独特な思慮深い顔に、優しい瞳を称えている、どうやら瑠衣の思った通りの人物の様だ。
「して…
朱雀殿、聞きたい話は例の陰陽師の事、それで良いのかの?」
「そうじゃ、御上そなたしか知らぬと聞いた」
どうやら、朱雀様と御上は個人的に付き合いがある…
瑠衣はそう睨む。
「何処から話せば良いかのう……」
長い夜の始まりである・・・
事の始まりは、安倍家が連れて来た、御所在中になる数人の陰陽師の一人だった。
見習い上がりの数人の陰陽師の中でも、能力は群を抜いており、御上他、公卿達の信頼を次々得て行った。
数年たち、その陰陽師は安倍家の中でも中核を成す事になるが、決して安倍家の血筋では無い。
では、どの様に?
持って産まれた才能なのか…
安倍家とは別の血筋なのか…
その事は誰にも分からず、幼少の頃に安倍家に引き取られたらしい。
そして修行を重ね、早いうちから才能を開花させていった・・・
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