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木之花ノ夜想曲~夢語り~
第26章 "考"

夜の静かな屋根の上、山崎は幹部棟が見下ろせる屋根の上に、一人考え事をしながら座り込んでいる。
幹部棟の中には橘達の部屋も見える。
少し気配を探れば、二人が何をしているのか容易に想像が付く。
「はぁー
わい何してんや…」
殆覗き紛いの事をしてる気がする。
…自分で考え気が滅入ってしまう……
"諦め切れない"
ただそれだけ…
あの時、橘に格好いい事言ったくせに、現実は全く諦め切れないで、モヤモヤする気持ちをどうにか抑えている。
橘はあの後、自分に普通に接してくれる、それを裏切る訳にはいかない…
だから自分も、何事も無い様に普通に接しているつもりだ。
「はぁ――――――っ」
大きな溜め息が山崎の口から漏れる。
こんなんじゃ忍失格だ。
どんな時でも冷静に状況を判断し、情報を持ち帰る…
今の自分はまるで逆、冷静のれの字も無い。
そういえば橘は感情の無い人形だったと、何時か夜の京の街中で話していたっけ‥
どんな教育を受ければそうなるのか…
前に一度見た、あの無感情の瞳、いつの間にか戻っていたが、あれが多分組に来る前の橘……
本当に動く人形の様に、言われた事には答えるが、其処には感情というものが全く無かった。
自分でさえ背筋が凍る様な錯覚…
それが‥今は感情豊かに走り回っている…
総司のお陰‥橘はそう言った。
そんな二人の間に入れる訳も無く…
自分はただこんな屋根の上で、寂しく幹部棟を眺めている。
本当に情けない…
でも諦められない、この気持ち、相反する感情に自分もどうして良いのか分からない。
無理やりでも手に入れたい、そんな思いが自分を支配する。
けどそれは、自分を信じてくれた橘を完全に裏切る行為。
「ほんま…どうしたら良いんやろ…」
誰も答えてくれないのを分かっているのに、つい言葉に出してしまう。
「裏切りたく無いんや…
けど、橘見てたら欲しくて堪らんなる…」
手に入れた沖田はんが正直羨ましい…
それと共に嫉妬という思いが、自分の中に確かにある。
自分勝手な事は百も承知してる、だが橘が欲しくてモヤモヤと嫉妬という炎が、目に見えない所で燃えてしまう。
「わい‥どないすれば良い?」
屋根の上で悲しそうな瞳を称え、幹部棟を見下ろす。
誰もくれない答えてを残して・・・

