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木之花ノ夜想曲~夢語り~
第29章 "策"
「お龍、槙太郎と以蔵は何処行ったかのぅ…」
「槙さんと以蔵さんなら今日は大阪どす、明日帰る言うてましたわ」
「何かつまらんのぅ…」
「ほなお客様、ごゆっくりして下さいまし」
お龍は盆を片手に下に下がって行ってしまう。
「・・・
才谷さん…」
「どうしたじゃ??」
「一つお願いがあるんですが、聞いて貰えますか?」
何時までも言葉遊びをしている暇は無い、瑠衣は改まって才谷を見る。
「・・・
わしに出来る範疇ならば力になっても良いぜよ」
そんな緊張感のある雰囲気に、才谷も改まって瑠衣を見た。
「では、お互いに嘘を付くのは止めにしませんか?」
「ほぅ…
わしが嘘ついちょると??」
「えぇ…
才谷さん‥いや坂本竜馬さん」
瑠衣の言葉に驚く才谷‥いや坂本!
「おまんも何者ぜよ…」
「会津藩預新撰組一番隊副隊長橘瑠衣」
「は…壬生浪!?
おまんがか!?」
「はい、ですが今日は組とは関係無く、自分の個人的なお願いで此処に来ました」
「・・・・・
聞いた事あるぜよ…
確か沖田の側近‥別名"鬼斬りの橘"……
腕前は沖田と同格と聞いちょる」
「その別名は知りませんでしたね…
そんな風に呼ばれているんですか自分は?」
流石に"鬼斬りの橘"なんて名を付けられて、渋い顔をしてしまう。
「人の噂じゃき」
目の前の橘と名乗ったこの男を見ても、とてもそんな風には見えない、十七~八の優しい青年そんな印象…
別名とはかけ離れ過ぎている。
「噂‥ですか…
嘘も本当もごちゃ混ぜですね」
瑠衣はただ穏やかに笑うだけ。
(これが壬生浪の人斬りだ言うちょるか…
血と縁の無い顔をしちょるに……)
瑠衣の顔を見て信じられ無い思いの坂本、だが一番隊副隊長と名乗った時点で、血と死の真っ只中にいるのは確実……
「それで…
わしに願いがある‥そうじゃきな?」
「えぇ…
坂本さんが扱っている貿易の取引の中に、欲しい物があるんです」
瑠衣は懐から紙を一枚取り出して坂本に見せる。
「・・・・・」
達筆な英語で書かれたそれは二つ、どちらも薬草のようだ。
「・・・
出来ますか?
それとも幕府の犬には売れませんか??」
瑠衣の瞳は真剣そのもの、一瞬も坂本の動きを逃がさない。