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木之花ノ夜想曲~夢語り~
第29章 "策"
"チクッ…"
煙が消える頃には、星光の意識は朦朧としていて、立っているのがやっとの状態。
「クスッ…
やられたものは倍返し…
ですよね‥"お香"さん?」
「き…貴様…橘……」
その瞬間、星光の体がぐらりと揺れる…
瑠衣は星光を抱え、結界から少し離れた場所に飛び降りた。
廃屋の壁に星光を座らせ頭巾を取る、其処には瞳の虚ろな星光が、ボーっと瑠衣を見上げている、上手くいった証拠だ。
「…お話聞いても良いかな?」
こういう時は強制的では無く、自然に星光の方から話すのを待つのが一番良い…
瑠衣は優しく子供をあやすように、星光に話し掛けている。
「君…名前は??」
「・・・・・・星光・・」
「そう、星光って言うんだ、生まれは何処かな?」
「…三河…山奥……」
「凄いね、家康公と同じ場所だね」
その言葉に星光は反応し、微かにニコリと笑う。
「そう…昔は…家康様に仕えていた一族なの…
けど、何時の間にか忘れられてしまった…それを拾ってくれたのは…主……」
瑠衣の方は慎重に話しを進める、主の名は聞かない方が良い、術に引っ掛かる恐れがあるからだ。
「凄い主だね…
君達三兄弟なの??」
「そう…兄者二人…星の最後の生き残り…
それを主は拾って育ててくれた……
私は主の…もの…例え使い捨てでも、欲望の捌け口でも良い…主と居られるならば……」
「・・・・・・・・・・」
欲望の捌け口……
瑠衣は己が立場を理解している星光に、軽い同情を覚えるが、今更止める事は出来ない…
向こうに取って、星一族は使いやすい駒…多分そこに感情などは…無いだろう……
「ずっと主と一緒なの?
主って凄い術を使うよね、やっぱり陰陽師なのかな?」
「ずっと一緒…
主が御所にいる頃から一緒だった…主は凄い陰陽師…」
薬が不十分なのか星光の顔が苦痛に歪む、やはり仕込み針だけでは効果は薄いようだ。
「大丈夫だよ…
さぁ…水をゆっくり飲んで……」
薬入りの竹筒を星光に渡し水を飲ませる…
しかし…それは死への階段…強力な自白剤と麻薬……
多分もう…この女は元には戻れない。
星光は瑠衣が差し出した竹筒の水を、ゆっくりと飲み干してゆく・・・
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