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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

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それから始まった、マナーのスパルタ教育。
社会人となってウン年、マナー教室にも通って(数時間のみ)、そこそこ営業モードを作って顧客に対応してきたと思ったけれど、名取川文乃から見れば、まだまだひよっこだったらしく、何度も基礎から覚えさせられた。
対象はあたしだけのはずなのに、朱羽や杏奈、木島くんが巻き添えとなる。
さすがに朱羽は、財閥の御曹司としてのひと通りの教育を受けていたらしく、その所作は名取川文乃がOKを出すほどであるのに、あたし達は何度やり直しても、中々OKが出ない。
マナー教室に行ったことがなく、入社以来ロリの格好ばかりで過ごしてきた杏奈と、美しい所作とは無縁の……男所帯のラグビー部育ちの木島くんにとって、この教育は初めてのことらしい。
だから正式な畳の歩き方やお辞儀の仕方など、頭で考えているのと実際の身体の動きが合っていないために、ふたりがすってんと転ぶのは仕方がないとしても、あたしまでうまくいかないとは、これいかに!
無論朱羽に、名取川文乃から注意があるのは、ほんの僅かだ。とはいえ、出来る奴にも、本当に容赦ない名取川文乃の指導。
彼女に呼ばれて名取川家に来た。
確かに彼女は、気難しい忍月財閥当主の対策であたしを扱いて鍛え上げているのは間違いないが、しかしあたしがこの成果をお披露目する機会が、そう簡単にあるのだろうか。
彼女はどんな状況を想定しているのだろう。
休憩中、それを尋ねると、彼女は答えた。
「……恐らく、今生きている人間の中で、私が一番忍月財閥当主である、忍月浩一を知っていると思います。忍月でやりたい放題の、あの寡婦よりも」
寡婦とは、未亡人のことだ。
「当主と、お知り合いなんですか?」
あたしの質問に、彼女は含み笑いを見せた。
「ええ。旧友と言えばいいのかしら」
「お友達!」
それでも当主は朱羽のおじいさんだ。
どう見ても彼女は、それまでの歳には思えない。
年の差があるお友達だったのだろうか。
それとも、当主が若いのだろうか。

