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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon
 

「名取川家が大きくなったのは、当主のおかげなの。まあ、まだ彼も当主になっていなかった時だったけれど」

 朱羽を見ると、朱羽は知らなかったと頭を横に振ってみせた。

「だけど彼も、忍月財閥に入ると変わってしまった。元々気難しい面もあったけれど、それでも……ひと握りでも情はあったのよ。本当に僅かだったけれど」

 彼女は遠いところを見つめるようにして言った。

「残虐性を増したのが、あの寡婦が息子の嫁となり本家に住むことになってからね」

 朱羽の義理のお母さんか。

「あの女は、元々は当主の愛人だったの。銀座でホステスをしていて、当主と息子に色目を使って」

 愛人!!

 名取川文乃は、本当に汚いものでも見るような忌まわしい目つきとなった。

「当主が、あの寡婦のやりたい放題をわかっていても追い出せないのは、きっと弱みを握られているからだと思う。ホステス時代から、色々な情報は彼女の耳に入っていたようだし、コネもあると聞くし。

だとすれば、香月さん。当主が次期当主にする者の相手は、あの寡婦のように……水商売とかスキャンダルになりそうな女は選ばない。寡婦への対抗として」

 胸がずきっとする。

 あたしはスキャンダルになりそうな過去を持っている。


「悪いですが鹿沼さん。私はあなたの過去を調べました」

「……っ」

 正座しているあたしは、スカートをぎゅっと手で掴んだ。

「かなりのものですね」

 名取川文乃の眼差しは鋭く、冷ややかで。

「正直、財閥の御曹司の相手には、難しい」

 蔑まれているのではないかと、不安が首をもたげ、あたしの身体がカタカタ震えた。それを見て、口を開きかけた朱羽を上書きするようにして言葉を発したのは、杏奈だった。

「綺麗ではない過去があっても、幸せになれると思います」

 ……強い眼差しだった。
 
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