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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

「ただ、忍月の中に入った後、あの寡婦には、あなたがひとりで戦わないといけない。その時は香月さん、あなたが鹿沼さんを守るのよ。忍月の外では私が守れるけれど、中に入ってしまったら、あなたしか守れるものがいない」
「元より承知の上」
朱羽の固い決意に、彼女は笑った。
「あの、今更なんですが……。なぜそこまで協力下さるんですか? あたしの過去を知ってもなお……」
「人間、綺麗ではない過去は持っているものです。私だって、あなた達に言えないようなことをして、この地位にいます」
「………っ」
「上流界は、金と権力で動く汚いところよ。その底なし沼に足を取られるのが、汚泥に耐久性がない人間。あの副社長のように、外ばかりにしか目を向けない人間もまた、ずぶずぶと底なし沼にはまる。
だけど鹿沼さんは頑張る力がありそうだから。香月さんのためには、三上さんや木島くんだけではなく、月代さんや結城さんらシークレットムーンの社員も、宮坂専務も、香月さんの歩む道を綺麗にしてくれるけれど、鹿沼さんは香月さんの手を引っ張ってあげれるでしょう。あなたの目は、強い」
「………」
「忍月財閥の当主が決めたことに逆らうのは、ほぼ不可能。だけど100%ではない。それを切り崩しにかかります。おそらく今頃、真下さんも頑張っていると思うけれど」
「え、衣里がいなくなった理由、もしかしてご存知で?」
「あら、知らなかったの? 彼女は真下家の長女よ? 忍月や、香月さんの見合い相手のような、成り上がりではない」
「は、はあ……」
「今日少しだけ口添えしてきたので、彼女もうまく立ち回れるかと。見合いを潰したら、シークレットムーンの皆さんの活躍ね」
彼女の中では、なにやら作戦がたてられているらしい。
彼女は衣里の動向を知っていたことに、心から安堵した。
「衣里は、一体なにに……」
「ああ、それは真下さんに言われてるの。鹿沼さんに真相を話すと顔に出るから、事前に教えないでくれと。よく理解しているお友達ね」
彼女は愉快そうに笑い、袖元で口を押さえた。
理由がわからないけれど、まあいいや。
そうやってあたしひとり教えて貰わずにいても、ちゃんと乗り切ってきたから、だからいいや。……朱羽も杏奈や木島くんも、教えて貰ってないんだし。
きっと、今回は衣里が主役だ――。

