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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

「はい、では箸置きに箸を置いて。その状態でお椀をお箸で頂いて下さい」
ええと、お箸は両手から持って……、そうするとお椀のふたは左手で開けないといけないの? 汁もので重いお椀を左手で持ち上げるのも、なにか苦しいぞ。
ふたがついたお椀、どうやって飲むんだ!?
あれ、どちらの手が箸? お椀?
誰もがパニックになり、お椀を持てない。
朱羽は?
「はい、香月さん合格。そう、臨機応変よ」
なにをやったのか見ていなかったあたし達に、名取川文乃は実演してくれた。
両手でお椀の蓋を取り、そのまま両手で持ち上げた。箸を右手だけで掴むとお椀を持つ左手の指に挟んで箸を持ち上げ、右手を下から滑らせ箸をを持つ。鮮やかなるその所作、あっぱれだ。
お椀を持つ時、持たない時と何度もやり直しをされて、なんとか指が攣りそうになりながら出来るようになった時、食べてみなさいと言われる。
見られていると箸がうまく動かず、ばってんになる。
お豆が取れない。煮っ転がしが掴めない。
ぐさりとさしてしまうと、名取川文乃の目がつり上がり、慌てて箸を抜いた。
ひぃぃぃっ、ごめんなさい!!
木島くんがお椀に箸を入れてずずっと飲むと、そちらを見た彼女の頬がひくひくと動く。
やはり取れないにっころがしを、杏奈が箸を揃えて掬って食べれば、さらに反対側の頬がひくひくと動いた。
なにか怖くて、箸先を噛んでしまえば、さらにぎろっと怖い目が寄越された。
なにをやっても怒られてしまう身の上は、どうやって箸を使って朝食が食べられるのかがわからない。
木島くんから空腹を知らせる音が鳴り響く。彼も迂闊には食べられなくなってしまったらしい。
その中で朱羽が食べている。
黙々とお腹に入れている。
……彼女に注意されない。

