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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

……なぜ、朱羽を財閥から遠ざけようとしているあたしが、財閥に近づくための猛特訓をしているのか。
それは昨日の、心頭滅却からの話に隠されていると思う。
忍月財閥当主や、朱羽の義理の母親(美幸さんというらしい)の懐に入るためには、彼らと同化しないといけない。そこで初めて、話が出来る土俵に上がれる。
作法だけではなく、最低限持たねばならないといけない知識も習った。
現代日本に居座る、忍月や向島などを含めた五大財閥の成り立ち、財界・政界・経済界の誰が誰と手を組んで、それらが過去の歴史においてどういう力を持つものか。
朱羽が足を踏み入れている世界は、本当に頭が痛いものだ。
人間がひとり生きていくのに、そんな知識は要らないが、話の場につくための試験として、わからないことを前提で聞いてくるのが当主だと教えられれば、ムーン入社時の月代会長を思い出してしまう。
実際はそこまで必要としない知識でも、それを選考の基準とされたことに、なにかやりきれない理不尽なものを感じながら、あの時もなんとか必死で覚えて乗り越えた。今は朱羽以外にも杏奈も木島くんも、あたしにクイズを出す形、或いはわからないことを積極的に名取川文乃に質問する形で、あたしに覚えさせようと協力してくれるから、その思いに応えるためにもあたしは頑張った。
根性だけは誰にも負けない。
「人間が一番力が発揮出来るのは、一夜漬。とにかくも鹿沼さんは、記憶が薄れる前の今日、恐らくはテストをされるはず」
「て、テストですか!?」
「さあ、一夜漬のお嬢様を作り上げるわよ!」
青ざめて慌てるあたしとは対照的に、なにやら名取川文乃は興奮したように嬉しそうだった。

