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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon
 

 俺は月代さんのところに、報告をした。
 
「あいつの過去が、強みになる……」

 しばし天井を見上げて、考え込んでいた月代さんは、やがてなにかに思い当たったようで、目を細めた。

「まさか、な……」

「なんですか?」

「いや、まさかそこまではあのひともするまい。だが……鹿沼の過去を知った上でだということになると、過去を露呈させないためには、その可能性が高い」
 
 月代さんの頭のキレは、病床の身でも健在だ。

「一体、それは……」

 俺ですら、行き当たらないのに。

 だが月代さんはそれに応えず、別の質問を投げかけた。

「ところで、衣里から連絡は来たか?」

「はい。さっき、きました。万事うまくいったようです。これも名取川さんの口添えがあったからだと」

「……衣里も、まずい方にいかなきゃいいがな」

 それは俺も考えていたことだった。

 それでもあいつの決心は固く、そして朱羽の見合いを潰せるのは、衣里しかいないのもまた、確かだ。

「むっちゃんは?」

「ホテルに行ってます」

「そうか。香月は?」

「今着替えに。もう来るでしょう」

 月代さんは笑った。

「なあ、渉。俺さ、負ける気がしないんだわ」

「え?」

「シークレットムーンは今波に乗っている。それを引き起こしたのは、化学反応を起こした香月自身ではないかと、思うんだ」

「………」

「化学変化となったのは、香月自身かもしれないな」

 朱羽……。

「渉。お前も、香月共に必ず帰って来いよ」

 月代さんは真顔で俺に言った。

「吾川も泣くぞ? あいつも今、必死に動き回っているんだ、それに応えろよ」

「……はい」

 月代さんは俺の手を握った。

「お前も、俺の家族だ。だから俺の子供達が、俺に代わって、お前をも守るだろう。……たまには守られてみろ、渉。お前は今まで必死に、ひとりで生き、ひとりで自分を守ってきた。他人の優しさや力を知らずに」

 俺は、泣きそうになる。

 また、このひとの前で性懲りもなく、わんわん泣きそうになる。


「お前も負けるな。俺は、お前の幸せも、心から願っているからな」

「……ありがとう……ございます」

 
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