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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon
 

 ありがとう、本当にありがとう。

 昔も今も。

 あなたのおかげで、俺は……ひとを守ることが出来るようになりました。

 あなたが俺を、守ってくれたから。

 だから今度は、俺があなたに代わって、あなたが愛する者達を守ります。

「香月と鹿沼を頼むぞ、渉」

「はいっ!」


 ……そして俺は、朱羽と共に帝王ホテルに向かう。

 朱羽の紺色の背広は、沙紀と俺が朱羽の誕生日にプレゼントしたものだ。

――これを着ると、すごくついているんで、ここぞという時に着ます。


 指定されたその場所には、ジジイとクソババアが、黒い和装姿で揃っていた。


「お前にいい相手を見つけたぞ」


 途端、強張る顔の朱羽。

 それを見ようとしないのが、ジジイだ。


「しかし、向こうが朱羽をフるかもしれませんよ」


 俺の言葉に、紋付き袴のジジイは笑った。


「ワシがいて、ありえない」


 ババアの視線を感じる。

 ババアを今の言葉で表現すれば、美魔女という奴だ。
 年老いているのに、色気だけは衰えない。

 男の精を吸い尽くすような、魔女や魔物の類い……その意味での美魔女。

 俺と朱羽を、値踏みするような目は、蛇のようだ。

 ババアは、どうしても朱羽を本家に入れて、昔……親父とジジイと、堂々と関係したように、朱羽を愛人にでもしようとしているのだろう。

 朱羽に向けられる好色な目が、ただ事ではないほどに輝いている。

 今の落ち着いた社会人姿で、ババアと相対したのは初めてか。


「さあ、時間だ、朱羽」


 ……そりゃあ、本家はジジイとババア中心だろうさ。

 だが世界は、もっと知恵を持つ者も、もっと身分が上の者もいる。

 独裁を貫けるのはここまでだ。

 あんたはもう、古い人間なんだよ。

 今はもう、俺達のような若い世代が主役になる時代だ。

 残忍で横暴なあんたの意志を受け継ぐものは、誰もいねぇんだ。

 凝り固まった頭を、今がつんと殴ってやる。


 俺は朱羽の手を握った。


「頑張れよ、お前には皆がついている。ひとりじゃない」

 朱羽が、微笑んだ。

「はい」

「可愛い弟を、俺も守る」

 少し朱羽の目が潤んだ気がした。

 
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