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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

***
「これを着なさい」
そう言われて、名取川文乃が差し出したのは、ワイン色の友禅の着物。
「え、着物ですか!?」
「ええ。あの当主は昔気質(かたぎ)だから、洋装より和装を好むわ。どうせ足元を見られるのなら、これを着て行きなさい。これは……私が若い頃、よく着て大切にしてきたものなの」
「そんな大切ものを……」
あたしは名取川文乃直々に着物を着付けられた。
「私の子供は、男ばかりだから……、本当に娘が欲しかったのよ。娘に上げようと、この着物を取っておいたものなの」
そうして彼女は、きゅっと最後に帯を締めた。
「よかったわ、とっておいて。なぜかね、ヴァイスのために私に怒ったあなたを、私は気に入ったのよ。だからこれはこれで、よかったと思うわ」
「……ありがとうございます、本当に」
「いい? 付刃の特訓は、いつか必ずボロが出る。タイムリミットがあるものと心得なさい」
「はい」
「身ぐるみ剥がされた状態になったのなら、あなたはあなたの情熱を信じなさい。あなたの心は、あなたが負けを認めない限り、無限に広がり強まるもの。あとはあなたの根性にかかってくる」
「はい」
「ではいきましょう。私は、当主の力に勝ることはできません。しかし、あなたの身元は私が保証し、守ってあげられます。私を信じて、進みなさい」
「はい、わかりました」
厳しい中に、愛が垣間見える。
このひとは冷淡ではなくて、情け深いひとなのかもしれない。
見ず知らずのぽっと出た他人を守るために、身体を張ってくれている。
それにじーんと感動しながら、このご恩は戦いが終わった後、しっかりお礼を言おうと思う。
あの性悪猫の相手をしていてもいい。屋敷を掃除することでもいい。
どんなことでも、あたしは返したい。

