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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon
 


 名取川文乃と共に帝王ホテルに向かう。

 どこからか帝王ホテルの支配人が飛んできて、名取川文乃に丁重に挨拶をした。


「あら、お久しぶりね、根岸さん。忍月さんのところはどこかしら」

「はい、飛應の間でございます」

「ということは、二階の和室ね?」

「はい。左様でございます」

「わかりました。場所はわかるからもういいわ。行きましょう」


 名取川文乃と共に、ラウンジレストランを見ながら、大きなシャンデリアがぶら下がる螺旋階段を上がっていく。

 足にはふかふかな赤い絨毯。

 それを慣れない草履で踏みしめながら、見合いが始まっているだろう朱羽の元に近づいていく。

 あたしになにが出来るかわからない。

 だけどここまでしてくれた名取川文乃に応えるためにも、あたしは相手に引き下がって貰い、当主に直談判する。まずそれが第一だ。


「飛應の間……ここよ。準備はいい?」

「はい」

 なにもないあたしだけれど、それでも朱羽と歩む未来を勝ち取るために。

 
 外側のドアを開けた時、笑い声が聞こえて来た。

 もしかして、相手と意気投合しているのではないだろうか。

 もしかして朱羽も、美しいご令嬢に目を奪われているのでしないだろうか。

 そんな一抹の不安を心に抱きながら、あたしは声をかけた。


「……お話中、失礼します」


 中の声を無視するように、襖を開いた。


「失礼は十分承知の上で、この度はなにとぞお願いを聞いて頂きたく、参りました」

 名取川文乃に教わった、座ったままのお辞儀。

 悪いけれど、形になるまで最低百回はやり直しされた。


「私……」


 そして顔を上げたあたしは固まった。

 大きな茶卓のこちら側に、当主、夫人、朱羽、専務が座っていたが、その朱羽の向かい側に座っているのは、年配の男女に挟まれた――。

 衣里!!

 なんで衣里!?

 衣里が朱羽の見合いの相手で、だから行方をくらませたの!?
 
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