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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon
 

「仰って」

 衣里が、塞がれていた道を拓いてくれる。

「まずあなたは、どこの誰ですか」

 わかっていながら、あたしを導いてくれる。

 あたしの情報を、当主にインプットしやすいよう。

 心強い援軍だ。涙が出そう。


「私は、鹿沼陽菜と申します。勤務しているシークレットムーンにおける、上司であり恋人を、返して頂くようにお願いに参りました」


「なんだと「黙って下さい!! この見合いは、こちら……忍月朱羽さんの希望だということで、ただいまお話を伺っておりました。つまり朱羽さんに恋人がいたということですか?」」

 どうせ、黙っている朱羽を横に、勝手に話を進めたのだろう。

「朱羽さん、いかがですか? あなたはこの見合いを望んでいなかったんですか? それともあちらの恋人だと言われる方を捨てて、忍月の後継者として私と結婚するおつもりですか?」

 直球――。

 それに対し、朱羽は毅然と顔を上げた。

「私は、見合いも後継者にもなりたくありません。そんな地位はいらない。私は、彼女と同じ会社で仕事をして、彼女を……妻に迎えたい」

 ……わかっている。こういう状況だからわかっているけど……それでも目が潤んでくる。

「だから申し訳ありません。この見合いは辞退「ならん!!」」

 怒鳴ったのは当主。

 白髪頭と白いヒゲをはやした、体格のいい強面な顔つきが厳格さを表わしている。

「真下さん、朱羽はこの女に騙されているんです。朱羽、お前っ!!」

「あら……。どう見ても真下家に匹敵するような家柄育ちとは思えませんが、彼女が朱羽さんを騙すことのメリットはどんなものでしょう?」

「え? メリット……」

「朱羽さんが財閥の当主となられるのなら彼女に利がありますが、それを捨てようとする朱羽さんに、果たして価値があるのでしょうか」

 衣里は、くつくつと笑った。

「私、忍月の肩書きがない朱羽さんなんて、まるで興味ありませんの。勿論、お隣の渉さんも。ああ、それともこう言ったほうがいいかしら。鼻持ちならぬ忍月の血を引く者達は、私と似ていて不快ですわ」

「は……」

 当主はぽかんとし、専務は笑いを堪えている。
 
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