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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

その時、パチーンと柏手がひとつ鳴った。
「はい。ここまでです。お久しぶりですね、忍月のご当主。そして真下のご当主とご夫人。先日は不躾なお願いに参り申し訳ありませんでした。そしてお約束して頂いた通り、口出しせずに、彼女とご令嬢のすることを見守って下さり、ありがとうございます」
ああ、わざとなにも言わなかったのか。
先に名取川文乃に言われて。
「どうですか、忍月のご当主。名もない彼女に、ここまで言われる気分は。そして美幸夫人、お初にお目もじいたします。私、名取川文乃と申します」
美幸と呼ばれた義母が、厭わしそうに目を細めた。
名取川文乃のオーラが凄まじいからだろう。
「なぜあなたが出てくるのですか。ここは忍月と真下家の……」
「ええ、子供のために懸命になるのが親ですから」
名取川文乃が笑ってあたしを見た。
あたしは懐から、折りたたんだ紙を出す。
「これはコピーですが、実物が見たければ役所にどうぞ。存分に、彼女がなにものか、お確かめあれ!!」
そう、全員が食い入るように見つめたその紙切れは、『養子縁組届』。
あたしの名前は戸籍上……名取川陽菜となっている。
――あなたを養女にします。ヤジマより私の方が、やりやすいでしょう?
そう、朱羽が、戸籍では忍月朱羽となっているのと同じように、28年使っている、鹿沼陽菜というあたしの氏名は、戸籍上のものではなくなった。
提案されて、あたしの名前を書けと言われた時、一瞬……迷った。
あたしのせいで死なせた家族を思ったら、鹿沼家をなくすのはどうかとも思った。だけど、それ以上に朱羽を助ける手札にしたかった。
――これが私の切り札よ。
あたしだって、すべてを賭けて朱羽を取り戻したいんだ。
あたしの過去を知りながら、養女に迎えてくれた名取川文乃……お義母さんの優しさに応えるためにも。
「名取川家は真下家と並ぶ、歴史ある旧家。彼女は……陽菜は、その令嬢。身分を持ち出すのなら、頭(ず)が高いのはどちらなのか、よく考えてから物を言いなさい。美幸さん?」
……名取川文乃の機転と、貫禄勝ちだった。

